新緑や紅葉の景勝地として、また避暑地としても人気の高い奥入瀬渓流。
写真で見て渓流の素晴らしさを感じていたつもりでも、実際その地に立つと、五感をくすぐる森の出来事に「命」を感じ、自然が織りなす数々の妙に心奪われてしまいます。
奥入瀬は生きています。日々うつろい、四季をつかさどります。自然が生み出す4つのリズムは、期待以上の美しさと表情を魅せてくれ、思いがけない演出までして歓迎してくれるから、季節を変えて何度でも訪れたくなるのでしょう。


奥入瀬渓流の春

  • 奥入瀬渓流の春写真2
  • 奥入瀬渓流の春写真3

森が眠りから覚める春先。雪解け水が渓流に乗り、少しずつ森が活気を取り戻す様子に出会うことが出来ます。
4月になってもまだまだ寒く、「春」とは名ばかりの奥入瀬。しぶとく残る雪を払いのけるように顔を出すのはフキノトウです。無防備な木々の枝先には、まだ固く身を閉じたつぼみが本格的な春の訪れを待っています。
5月も半ばになると、足元や木々に花が咲き始め、ようやく頭の上には緑が芽吹きはじめます。若葉が出揃い始めた森に、一気に生命力を吹き込むのが野鳥のさえずりです。
木々の合間から降り注ぐ木漏れ日にもこころなしか緑味を感じられるようになり、太陽と緑の匂いが鼻先をくすぐります。自然の息吹を身体いっぱいで感じることができる奥入瀬の春がようやくやって来ました。


奥入瀬渓流の夏

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青々と茂る目にも鮮やかな緑。6月初め頃には、写真などで見る「イメージ通り」の奥入瀬が広がります。ところが、実際そこに立つと大きな違いを感じられるでしょう。それは耳や鼻、皮膚で感じる奥入瀬があるということ。
森林を抜ける風は涼しく緑の香りをたくさん包みこみ、大きく深呼吸したくなります。
飛び散る滝のしぶきは、降り注ぐ木漏れ日を浴びて、小さな虹を作ることも。
森独特の音響で野鳥の声がこだまし、時には幻想的に、時には滑稽に、私たちに音の楽しみを届けてくれます。
カタツムリのように巻かれたシダや、クジャクの羽のように伸びやかに生い茂るシダは、まるで芸術作品。
人の手では作れない造形と演出に魅せられ、時間を忘れてしまいます。
五感をくすぐる体験の数々…。奥入瀬の夏は、毎日が奇跡です。


奥入瀬渓流の秋

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お盆を過ぎると、奥入瀬は少しずつ秋の気配。長袖を羽織りたくなるような冷涼な風が、時折すぅーと通り抜けます。9月中旬から朝晩がグッと冷え込むようになり、この朝晩の冷え込みこそが、10月からの紅葉を美しいものにしていくのです。
赤黄茶に染まる葉が、森に奥行きを出していきます。まだ少し残る緑とも見事に調和。まるで計算されたかのような配色に、自然の神秘を感じます。
森の中を通るとき、頭上の紅葉にばかり目を向けてしまいがちですが、雨の日には、ちょっとしたからくりで天も地も秋色に染まります。濡れた車道にも紅葉が映り込むのです。この様子は、梅雨時の車道に映り込む緑以上に鮮やか。散策路や車道を覆うように木々のトンネルが続く奥入瀬ならではの楽しみかもしれません。
小刻みに変わる秋の奥入瀬。紅葉もピークを過ぎると、足早に冬支度が始まります。


奥入瀬渓流の冬

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  • 奥入瀬渓流の冬写真3

燃えるような紅葉が落ちて木々が裸になると、いよいよ冬の到来です。里よりも早く、深く、降り積もる雪。白い世界は何もないように思えますが、意外な面白さや発見が。
湿気の多い雪が降ると、木々に雪の固まりを作ります。その様子はまるで、綿の花が咲いているかのようです。
春〜秋の間、休むことなく流れていた滝は、ガラスのようなつららとなります。その様子もよく観察してみると、白ではなく青磁色。自然の妙には、まったく驚かされます。
人の足が踏み入れることのない、散策路から外れた雪の上には、カモシカと思われる動物が自由に足跡を残しており、この地球上に生きているのは人間だけではないことを、あらためて感じさせられます。
澄み渡る空気の中に広がる雪の世界。この下には、森が生命力を蓄えながら春まで眠り続けます。