八甲田山は一つの山名ではなく、
八甲田大岳、赤倉岳を中心とする北八甲田連峰と、櫛ケ峰、駒ケ峰、乗鞍岳を中心とする南八甲田連峰をさす。北八甲田連峰は登山道も整備され、口-プウ工-を利用すれば
子供から大人まで気軽に八イキングが楽しめるコースもある。豊かな自然が広がる北八甲田連峰の登山コースを紹介しよう。
八甲田ロープウエー
北八甲田山へのスタート地点
十和田北線沿いの山麓駅と田茂萢岳山頂駅 間を結ぶ百一人乗りのロープウエーで、標高差650メートルをわずか10分で運んでくれる。冬から春はスキーヤーで、夏から秋は観光客や登山客で賑わう。ロープウエーに乗り込むと、眼下にはブナ林が広がる。しだいに標高が高くなるにつれて、ダケカンバとアオモリトドマツの混交林にかわり、山頂公園駅付近ではアオモリトドマツ林の濃緑色に覆われる。また冬期は、このあたりでも見事な樹氷群ができるので、観光客の誰もが樹氷を間近かに見ることができる。
田茂萢湿原ラクラクコース
田茂萢岳山頂付近に広がる高層湿原をめぐる8の字形の遊歩道「八甲田ゴードライン」は、湿原と池塘を約一時 間ほどで周遊するコース。
ロープウエー山頂公園駅広場に立つと、左手に無線中継塔が見える。これに向かって行くと山頂展望台がある。展望台からの眺めは素晴らしく、東には北八甲田連峰が見え、その峰々のあいだに太平洋がキラリと光る。北は青森湾を隔てて北海道の山々、そして西には日本海、さらに南に は南八甲田の山々と八幡平、岩手山が遠望でき、まさに三百六十度の壮大な眺めだ。 道に従ってくだって行くと、8の字が交差する地点の十字路にでる。ここでは左手に行ってみよう。
道の少し奥に展望台があり、その手前に池塘が山影をうつしている。六月から七月、このあたりには湿原性高山植物のミツガシワやヒナザクラなどの可憐な花が多く見られる。正面には、この先訪れる通称ニセ田茂萢岳のピークが座している。
さらに進むと、ふたたび展望台にでる。このあたりの道の両側には、七月から八月にかけてハクサンシャクナゲやミヤマアキノキリンソウが色どりを添える。
道は少し先でT字路になり、右手に進むと通称ニセ田茂萢岳の頂きで、大岳、井戸岳、赤倉岳が間近かに見えてくる。頂きの南、北西斜面のアオモリトドマツ林は冬期、豪快な樹氷群となる。林を抜けるとスタート地点のロープウエー山頂公園広場にもどる。
毛無岱湿原コース
8字形のラクラクコースから分かれて一足飛びで毛無岱分岐だ。分岐点にある標柱に従い(右方向)山道をくだる。
途中二、三本の小沢を渡ると、視界がパッと広がり、大岳避難小屋からの道と合流する。道はここからよく整備され、木道が敷かれている。南八甲田の山々を左側に見ながら木道をくだって行くが、初夏(六月)はチングルマの群落、夏(七月)ならキ ンコウカの群落で華やかだ。
二十分もくだると上毛無岱展望台に着く。大きな池塘があり、五月から六月にかけて、ミズバショウやミツガシワが美しい。うしろを振り返ると大岳、井戸岳、赤倉岳が厚い壁のようにそびえている。
展望台をあとに少しくだると長い急な階段がある。この階段を境にして、上・下毛無岱と呼んでいる。階段途中から眼下に見る下毛無岱の池塘群は素晴らしい。たくさんの大小の池塘のなかに、モウセンゴケや、ミツガシワ(六~七月)、サワギキョウ(八~九月)などの湿原植物が咲き乱れている。またこの付近ではホシガラスが多く見られ、とくに秋には食料をたくわえる様子、池塘で水遊びする姿などがよく見られるので注意してみよう。
広い湿原に伸びる木道はどこまでもつづくように感じられる。途中の下毛無岱展望台からは、さきほど厚い壁に見えた大岳などの表情もたおやかだ。正面に は津軽富士岩木山が優美な姿を見せている。
やがて湿原から森林へ入ると展望もなくなり、ひたすら歩くだけだが、林床の花に注意してみよう。春のコミヤマカタバミから秋のミズギクまで、種類は多くないが十分目を楽しませてくれる。五、六本も小沢を渡りながらくだって行くと城ケ倉分岐にでる。右は城ケ倉温泉への道、まっすぐ進むと酸ケ湯温泉だ。ここから終点の酸ケ湯温泉までは、約二十分ほど。やがて硫黄のにおいがして、目前がパッと開けると眼下に酸ケ湯の建物が見える。急な坂をくだると酸ケ湯温泉の玄関だ。
大岳コース
毛無岱分岐を左に進みアオモリトドマツの樹林を登って行く。アオモリトドマツ林を抜けると、まわりはハイマツで埋めつくされ、道も急峻になってくる。 断崖の縁にでて、右に伸びる道をたどる。左手下には、その昔赤倉岳が噴火した際にできた五色岩といわれる断層がカラフルに見える。
やがて祠のある赤倉岳山頂だ。ここから井戸岳までは平坦な尾根つづきになってい る。軽い足運びで井戸岳の噴火壁に立つ。本当の山頂は反対側の一段高いところだが、植物保護のため立ち入り禁止。噴火口付近には 8月から9月、ピンク色の可憐なイワブクロが群生していて目をひく。 噴火壁をすぎたあたり、急なくだりの道の両側は植生復元が図られていてミネヤナギのさし木や高山植物の播種が見られる。登山者が踏み込み、植生がはがれて崩壊したためで、ここも立ち入り禁止だ。 柵に沿ってくだると大岳避難小屋があるので小休憩しよう。山頂まではもう一息だ。このあたりは七月末まで残雪が見られる。やがて森林限界だが、道は整備されていて歩きやすい。この付近でも、植生復元がなされている。 山頂 からの展望は360度の素晴らしい眺め。北には先ほど歩いてきた赤倉・井戸岳、東には噴火口の向こうに小岳・高田大岳、西には津軽富士岩木山、南には櫛ケ 峰、遠方には岩手山などが見渡せる。
山頂をあとに南に少しくだると大岳噴火の名残である鏡沼がある。直径10メートルほどの小さな池沼で、クロサンショウウオが生息している。春なら寒天状の卵、夏から秋にはエラをつけて水中を泳ぎまわる姿を間近かに見ることができる。 急なガレ場をくだり終えるとアオモリトドマツ林に入る。林のなかにはミミコウモリなどがたくさん生えている。 林を抜けたあたりは夏でも残雪があり、雪田植物のヒナザクラ、イワイチョウなどが群生している。小岳への分岐をすぎて、まっすぐ進むと湿原のなかにこんこんと湧きでる八甲田清水がある。山中でいちばんおいしい水だ。湿原の東端には仙人岱避難小屋があるので、小休止してもいいだろう。このあたりには以前小さな池塘がたくさんあり、夏には多くの植物が咲き乱れていたが、登山者に踏み荒らされてしまい、その面影は湿原の端に少し残るだけである。 標柱に従って進むと地獄湯の沢上部にでる。沢の両側が少し広くなっているのは昔、硫黄を採掘したところで、今はその跡もない。足元に注意しながら進み、沢を離れ四十分もくだると突然前方が広がり賽の河原にでる。大岳コースの終点、酸ケ湯温泉はすぐ目の前だ。
酸ヶ湯温泉
ブナ、ダケカンバ、アオモリトドマツの自然林にかこまれた、標高 920メートルに位置する酸ケ湯温泉。冬期は青森からの道路も、ここまでは開通している。(ただし、夜間規制あり)
貞享元年(1684年)横内(青森市)に住む狩人が、射損じた鹿を追って山中をさまよい、その鹿が湯に傷口をつけ治しているのを見つけたのがはじまりという。温泉の名称も、当初は鹿の湯、やがて酢ケ湯、そして現在の酸ケ湯になった。 近年までは雪を踏んで山に入り、簡易小屋を建てての季節湯治場であった。また強酸性のため、肌が荒れるところから白い肌着を着て、菅笠をかぶって入浴したという。 今では定員七百人の大旅館だが、木造で湯治場の雰囲気をよく残している。総ヒバ造りの混浴の千人風呂が有名で、ほかに男女別の玉の湯がある。 湯治客のほかに、北八甲田登山やスキーツアーの基地としても知られ、一年中賑わいを見せている。ガイドも頼むことができる。 昭和二十九年に上州四万、日光湯元とともに国民保養温泉地第一号に指定されている。(青森駅からJRバス73分・マイカー50分)
南八甲田登山
八甲田山のもう一つの山群南八甲田連峰は、櫛ケ峰を主峰とし、横岳、駒ケ峰、乗鞍岳、南部赤倉岳などの山々をさす。十和田北線の自動車道の南側に広がっている。
登山道やロープウエーが整備された北八甲田連峰にくらべ、南八甲田連峰はアプロ-チが長く悪路も多いうえに、荒天時には避難する山小屋もないので登山には十分な準備と心がまえが必要だ。
南八甲田へは、猿倉温泉を登山基地として、通称旧道と呼ばれる登山道がメインルート。櫛ケ峰、黄瀬沼、乗鞍岳、駒ケ峰へは、この旧道からそれぞれ分岐する登山道を利用する。
石ころ道、泥道、やぶこぎを覚悟しなければならないが、高山植物、湿原と池塘、森林が素晴らしい。そのほか新道として猿倉岳から駒ケ峰を結ぶ尾根道があるが、展望もきかず荒廃している。また、十和田湖御鼻部山への道は遠く、途中やぶこぎの踏み跡をたどらなければならない。
南八甲田の山々は、東北の山々のなかでも自然性の高い山域で、未開原生の地といっていいだろう。













